新潟地方裁判所長岡支部 昭和43年(ワ)130号 判決 1969年6月27日
原告 中沢新五
右訴訟代理人弁護士 棚村重信
被告 三共電線株式会社
右代表者代表取締役 雨宮嘉勝
<ほか一名>
右被告両名訴訟代理人弁護士 片桐敬弌
主文
被告等は原告に対し、連帯して二二三万二九一九円及びこれに対する昭和四二年九月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告等の負担とする。
事実
一、当事者の申立
原告「被告等は原告に対し、連帯して金六〇八万円及びこれに対する昭和四二年九月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする」旨の判決並びに仮執行の宣言。
被告等「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」。
二、請求原因
(一) 被告平井弘二は、昭和四二年九月二〇日貨物自動車を運転し、新潟県長岡市東坂之上町一丁目の市道と巾員の広い国道一七号線の交差点にさしかかり右国道に出ようとしたのであるが、このような場合には、自動車運転者としては前方左右を注視しその安全を確認したのちに右国道へ進入すべき義務があるのにそれを怠り漫然右国道に進行したため、同国道左側を進行中の原告の自動二輪車側面に被告自動車の前部を衝突させ(以下本件事故という)、因って原告に対し左下腿及び左橈骨遠位端骨折の傷害を負わせた。
(二) 被告三共電線株式会社は、右被告平井運転の右貨物自動車を自己のため運行の用に供していた者である。
(三) しかして、原告に対し、被告平井は原告に対する不法行為者として、被告会社は自動車の運行供用者として、それぞれ原告が前記傷害を受けたことにより蒙った損害を賠償すべき責に任ずべきところ、原告は次のような損害を受けた。
(1) 原告は植木、庭石、造園業を営んでいる者であるところ、本件事故による傷害のため事故当日直ちに長岡赤十字病院に入院し約一ヶ月間治療を受けて退院し、その後も同病院に通院し治療をうけるほか整骨医の治療をうけているため、少くとも右事故当日の昭和四二年九月二〇日から昭和四三年九月末まで、右営業に従事することはできなかったし、更に少くとも昭和四三年一〇月から一年間は労働能力は事故前の三〇%に低下した。
従って、原告は前記庭木造園業で本件事故前は毎月少くとも二〇万円を下らない収入を得ていたものであるから、右本件事故後昭和四三年九月末までの就業不能期間中は合計二四〇万円の得べかりし利益を失いそれだけの損害を蒙ったし、右昭和四三年一〇月から一年間の労働能力が七〇%減退した期間は一六八万円の得べかりし利益を失うことになる。
(2) 原告は前記傷害により入院、通院したほか強い精神的苦痛を受けたが、それを慰藉するには、被告等から原告に対し少くとも金二〇〇万円の支払いをする必要がある。
(四) よって、原告は、被告等に対し被告等が連帯して金六〇八万円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和四二年九月二一日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。
三、被告等の答弁及び抗弁≪省略≫
理由
一、被告平井運転の貨物自動車と原告運転の自動二輪車が、原告主張の日に原告主張の場所で衝突したこと、被告会社が右被告平井運転の貨物自動車の運行供用者であったことは当事者間に争いなく、≪証拠省略≫によると、右により原告は左下腿及び左橈骨遠位端骨折の傷害を負ったことが認められ、右認定に反する証拠はない。そうすると、右貨物自動車の運行供用者であった被告会社は原告の右傷害によって生じた損害を賠償すべき責任がある。
二、そこで、被告平井の責任につき検討する。≪証拠省略≫によれば、本件事故現場は幅員一六メートルの南北にのびる国道一七号線に幅員七・二メートルの市道が西側に直角に接する丁字型交差点で、信号機の設置も交通整理もされていない場所であったこと、原告は右国道を南から北へ直進し右交差点に差しかかり、被告平井は右幅員の狭い道路を東進し右交差点で国道上を右折すべく交差点へ差しかかったこと、本件事故当時原告の進行中の国道上交差点直前の左側前方に荷台の高い貨物自動車が駐車中であり、かつ右市道と国道の接する角に商店があったため市道から国道右側に対する見通しが悪かったこと、がそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。右のように幅員の狭い市道が幅員が広くかつ直線状態となっている国道に直角に接しており、かつ国道右側に対する見通しのよくない交差点へ市道から入りそこを右折しようとする被告平井としては、国道上を注視しその安全を充分に確認し、しかるのちに進行すべき義務があるというべきところ、国道右側(南側)に対する安全確認が充分ではなく、因って本件衝突事故を惹起させたものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、被告平井も本件衝突事故により原告の蒙った損害を賠償すべき責任がある。
そして、被告等の損害賠償債務はいわゆる不真正連帯債務であることが明らかである。
三、(1) そこで、原告の蒙った損害について検討する。原告が植木、庭石、造園業を営んでいることは当事者間に争いなく、原告本人尋問の結果によれば、右営業のため常時数名を使用していることが認められる。このような個人企業主が身体を侵害された場合の逸失利益の算定は、原則として、企業収益中に占めていた企業主の労務とかその他企業に対する個人的寄与に基く収益部分の割合によって算定すべきであると解されるところ、本件においてはその全証拠によっても原告の企業の収益中に占めている原告の個人的寄与に基く収益の割合を認定することはできないが(原告本人尋問の結果もこれを認めるに足りない)、≪証拠省略≫によれば、昭和四二年九月の本件事故当時においては原告の労務日当は二、二〇〇円であったことが認められ、昭和四三年四月から昭和四四年三月までは二、四〇〇円、同年四月から翌年三月までは二、七〇〇円であることが推認され、通常は一月当り約二六日間は稼働していたものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(2) そして、≪証拠省略≫を総合すれば、原告は本件事故当日の昭和四二年九月二〇日前記傷害のため長岡赤十字病院に入院し同年一〇月一一日まで治療をうけて退院し、昭和四三年三月まで月二回、同年四、五月は月一回各通院し、同年六月二〇日から二二日まで固定金属を除去するため入院し、その後同年九月まで月一回通院治療をうけたほか、整骨医からマツサージ等の治療をうけており、右事故後一年を経過した昭和四三年九月末の時点では肉体労働に従事することは少くとも無理であると認められ、原告も稼働先に対し自己の労務日当の請求をしていないこと、及びその後の一年間は徐々ではあるが或程度の身体的労働に従事することは可能であり、右一年間(昭和四三年一〇月から昭和四四年九月)を平均すれば少くとも事故前の五〇%の労働能力は回復するものとそれぞれ推認され、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(3) ところで、原告は右期間における逸失利益及びそれに対する事故発生の翌日から年五分の遅延損害金の支払いを求めているのであるが、然るときは、その逸失利益たる損害額につき右支払いをなすべき日までの中間利息を控除して算定する必要があり、(便宜原告の収入を月別にまとめ、月別法定利率による単利年金現価表によることとする)その損害額は次のようになる。
(イ) 昭和四四年九月二〇日から同月三〇日まで一一日間、一日二二〇〇円、計二万四二〇〇円(これは事故当月のため、中間利息は控除しない)
(ロ) 昭和四二年一〇月から昭和四三年九月まで一二ヶ月、一ヶ月当り五万九、八〇〇円(月当り二六日稼働するものとし、昭和四二年一〇月から昭和四三年三月まで一日当り二、二〇〇円一月当り五万七、二〇〇円、同年四月から九月までは一日当り二、四〇〇円、一月当り六万二、四〇〇円であると認められるので、右一年間の月別平均額は五万九、八〇〇円でありこれによる)、これにその月別法定利率による単利年金現価総額表による一一・六八五八を乗じた六九万八、八一〇円(円未満切捨て以下同じ)
(ハ) 昭和四三年一〇月から昭和四四年九月まで一二ヶ月、一ヶ月当り六万六、三〇〇円(月当り二六日稼働するものとし、昭和四三年一〇月から昭和四四年三月まで一日当り二、四〇〇円、一月当り六万二、四〇〇円、同年四月から同年九月まで一日当り二、七〇〇円一月当り七万二〇〇円であると認められるので、右一年間の月別平均額は六万六、三〇〇円でありこれによる)、同様これに一一・六八五八を乗じた七七万四、七六八円
(ニ) 原告本人尋問の結果によれば本件事故により原告は精神的苦痛を受けたと認められるが、後述のように本件事故の発生につき原告に過失ありと認めることはできず、従って本件事故は被告平井の一方的過失により惹起されたものであるし、更に≪証拠省略≫によれば昭和四四年一〇月以後においても本件事故による傷害により原告には労働能力の減退が継続するとうかがわれること等を配慮するときは、被告等が原告に対し給付すべき慰藉料は金一〇〇万円が相当であると認められる。
(4) ≪証拠省略≫によれば、被告等から原告に対し本件事故発生に関し金五三万二、〇五八円の支払いがなされていることが認められるが、右のうち二六万六、二九九円は傷害の治療や入院等に際して要した費用として、九〇〇円は本件事故により破損した原告の時計バンドの実費弁償として各支払われたものであることが明らかであり、本件原告の請求に関係するものは右のうち二六万四、八五九円で、従って被告から原告の本訴請求のうち右金額の弁済がなされているものと認められ、右認定に反する証拠はない。従って、前記(3)の合計金額二四九万七、七七八円から右金額を控除した二二三万二、九一九円につき被告等は原告に対し連帯して支払義務を負うものである。
(5) 本件全証拠によっても、本件事故発生につき原告に過失があったと認めることはできない。
四、以上の次第で、被告等は原告に対し、連帯して金二二三万二、九一九円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日たる昭和四二年九月二一日から民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから原告の請求を右の限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書、九三条一項本文を適用し、仮執行宣言は附さないこととして主文のとおり判決する。
(裁判官 渋川満)